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摂食障害をめぐる3つの誤解!その理解、間違ってるかも?

小野寺リヒト  –  臨床心理士・公認心理師

心の知見

Photo by Heather Ford on Unsplash

イライラした時についチョコレート菓子を一箱まるまる食べてしまった…。

ポテトチップスを食べながらボーッとテレビを観ていたら、気づいた時には袋の中身が空だった…。

こんな経験、皆様にもありませんか?
同じ経験をしたことがある方なら、食べきってしまった後の絶望感や後悔を、きっと共感してくださるのではないかと思います。

「もうこんなことしないぞ!」

「しばらく絶食だ!」

と思うけど、気がついたら同じことを繰り返してしまう。。。

食にまつわる悩みはつきません。

さて、今日テーマに挙げる「摂食障害」も、食にまつわる絶望感や後悔、そして悩みを抱える点では共通しています。
ところが、共通しているからこそ、摂食障害は様々な誤解を受けている面があるのです。

そんな誤解を、一つひとつ解説しながら解きほぐしていきたいなと思います。

この記事の目的とゴール

摂食障害にまつわるよくある3つの誤解を解き、心理学的に正しい理解が出来るようになることを目指します。
そして、どのような支援が適切な支援なのかを一緒に考えていきたいと思います。

摂食障害とは

まずは、摂食障害とは何かについてお話します。

摂食障害とは、食にまつわる行動を中心として、様々な問題を呈する心の病いの一種です。
大きくは、①ほとんど食事を摂ることが出来なくなってしまう神経性無食欲症、②むちゃ食いをし、時にはそれを嘔吐をしたりする神経性大食症の2つに分類されます。

①は拒食症、②は過食症といった名称の方がなじみがあるかも知れません。

拒食症に対しては、点滴などによって栄養を補給する治療法が取られることが多くあります。
一方、過食症に対しては、食事量や食事の仕方をコントロールして、量を減らす治療法が取られることが多くあります。

この説明だけ聞くと、この2つは真逆の病気なのだという印象を持たれたかも知れません。

ところがそうではないです。

拒食症と過食症は、全く別の病気というわけではなく、拒食症から過食症になったり、あるいは逆に過食症から拒食症になったりといった変遷を経ることもあります。

でも、それはどうしてなのでしょう?

その答えは、拒食症も過食症も、共通したところに病いの中核があるからなのです。

この点をきちんと理解できれば、摂食障害にまつわる誤解が解けるかもしれません。

では次に、摂食障害に関してよくある誤解について見ていきましょう。

1つ目の誤解「摂食障害は本人の性格の問題だ」?

「食べれないなんて言ってないで食べれば良いだけ。食べないなんて、なんて“ワガママ”なんだ。」
「皆好きなだけ食べたいのに我慢しているの。それなのに吐くまで食べるなんて、“意志が弱い”んじゃないの?」

こんなふうに思っている人も、多いのではないでしょうか?

しかし、こういった理解は残念ながら間違っています。

確かに、私たちは比較的簡単に、食べ過ぎた次の日には食事を控えめにしたり、食べたいのを我慢してやり過ごすことができます。

なぜできるのでしょう?
良い性格の持ち主だから?

違います。

理由はもっと単純です。

それは、私たちが「摂食障害を患っていないから」です。

これが最大の違いです。性格の善し悪し(?)は一切関係がありません。

思い出してください。摂食障害の症状は、食の異常が目立つ為につい忘れられがちなのですが、れっきとした「心の病い」なのだということを。

一度摂食障害になると、自分の力で食の問題をコントロールすることが出来なくなります。もしコントロール出来るのだとしたら、それは「病い」とは言いません。

インフルエンザになったときのことを思い出してください。
40度近く上がった体温を、平熱に下げるべくコントロールできましたか?
関節の痛みを緩和させる努力をして、痛みが和らぎましたか?

いずれも無理でしたよね。

それは、インフルエンザが「病い」だからです。病いは自力でコントロールできません。

摂食障害もインフルエンザも「病い」という点で全く一緒。

性格うんぬんでコントロール出来る出来ないが決まるはずもないのです。

2つ目の誤解「摂食障害は母親の育て方が原因だ」?

「母親との折り合いが悪いと、女の子は母親のような大人の女になりたくないと思うので、成長することを拒む。だからまともに食事が摂れないんだ」

これも以外とよく聞く話ですが、残念。間違っています。

摂食障害を患う方は女性が多いので、そのような考え方が広まったのでしょうか?

実際、摂食障害情報ポータルサイト(2015)によれば、Smink(2012)の行った米国の調査では、成人女性で0.9%、成人男性で0.3%が拒食症になり、女性の0.9~1.5%、男性の0.1~0.5%が過食症になるというデータがあるようです。

女性は男性の3倍程度、摂食障害になりやすい傾向があるということです。

ただ、よくよく考えると、養育者として中心的な存在が母親であったとしても、学校に行けば友だちもいるし、先生もいます。先生の中には憧れを抱くことの出来る素晴らしい大人もいるかもしれません。

身内には両親以外の大人もいることでしょう。

人が成長する過程では、様々な対人関係が心身の成長に影響するものです。

そう考えると、母親の育て方にだけ原因を求めるのは、かなり無理なような気がします。

そもそも、本当に「原因」なのだとしたら、母親の育て方が悪かった子どもは、全員が摂食障害になっていなければならないことになります。

「原因」とは、何かが起きる時に必ず先行している事象のことを指す言葉だからです。

100歩、いや10,000歩譲って「母親の育て方が原因」だとしても、そう考えるメリットは1つもありません。

父親は「お前のせいだ」と、責任を放棄するかもしれません。
本人は「母親のせいだ」と、ずっと怒りの感情を抱え続けなければならなくなるかも知れません。
母親は「私のせいだ」と、自分を責め続け自信をなくしてしまうかも知れません。

こうなってしまうと、本来、摂食障害を一緒に治していく協力者となるべき家族の存在が、居心地が悪いストレスのあるものとなってしまうでしょう。

このように、「母親の育て方が原因だ」との考え方は、そもそもに無理があります。

それに、この考え方を採用してしまったら、家族皆が辛い思いをします。

人間は過去には戻れません。
「育て方」という取り返しのつかないことに原因を求めてしまうと、摂食障害の克服そのものが不可能なことになってしまいますよね。

3つ目の誤解「摂食障害は食の問題だ」?

「え?食の問題じゃないの?さすがにこれは誤解じゃないでしょ?どういうこと?」

そう思われた方がほとんどかと思います。

確かに、摂食障害の治療的アプローチには、食の問題に焦点を当てたものもあります。

点滴で栄養を補給したり、食事量減らす治療法が取られることがあることを先述もしました。

ところが、こういった治療法はあくまでも危機介入的(栄養が足りないと命の危機があります)・対処療法的アプローチなのです。

さて、そろそろ「拒食症も過食症も、共通したところに病いの中核がある」と述べたことの解答をする時が来ました。

摂食障害が性格の問題でも、母親の育て方でも、ましてや食の問題ではないとしたら、それは一体何の問題なのでしょうか?

それは「自尊心の低さ」です。ここに病いの中核があります(※)。

※「自尊心の低さ」が「摂食障害の原因」と言っているのではない点に注意してください。実は摂食障害の原因は、現在誰にもわかっていないのです。しかし、「自尊心の低さ」が摂食障害の発症に「影響」していることは多くの研究によって明らかになっています(例えばCostin,1997)。

したがって、摂食障害の克服には、自尊心を高めていくアプローチが必要となってきます。

自尊心の低さがどう摂食障害に繋がるの?

自尊心とは、読んで字のごとく、「自分のことを尊敬できる心」のことです。「私は私のままで充分素晴らしい」という主観的な感覚のことと考えるとわかりやすいでしょうか?

自尊心が低くなる理由は様々です。
過去に辛い評価を受けたり(かわいくない、デブなど)、身近に自分よりも勉強もスポーツも良くできる(ように感じる)人がいてその人と比べて劣等感があったり。

いずれにせよ、自尊心が低くなると、それをなんとか補おうと人は動機づけられます。

最もわかりやすく自尊心を回復する手段はなんでしょうか?

それは、「数字」そして「外見」をコントロールすることです。

ダイエットは自尊心の回復に結びつけやすい

数字と外見。この2つをコントロールすることが、(当面の)自尊心の回復を図る上で非常にわかりやすい方法と述べました。

では、この2つをコントロールする手段には、一体どんなものがあるのか。

それは「ダイエット」です。

「わ!頑張って運動したらもう3キロも痩せた!」
「痩せて綺麗になったねって言ってもらえた」

こんな経験をして嬉しくない人はいないでしょう。自尊心が満たされる瞬間です。

実際、拒食症にせよ、過食症にせよ、摂食障害を抱える方にダイエットをした経験がない人はいないと言っても過言ではありません。

実際、何らかのダイエットをしている人たちは、していない人に比べて、7〜8倍も摂食障害を発症する傾向があることがわかっています(Keel,2006)。

ダイエットは、自分の力で数字をコントロールできるので、とても自尊心が満たされます。

しかも他者からの評価も得られるチャンスでもある。

こうなると「もっともっと」となるのも理解できなくはありません。

しかし、「数字」や「外見」にばかり目が行くと、ある2つの問題が浮上してくるのです。

これが摂食障害のトリガーとなります。

摂食障害の2つのトリガー

まず1つ目のトリガー。それは、「食べ物のことしか考えられなくなる」です。

ダイエットは食事を制限することです。「もっともっと」となればなるほど、ますます食事を制限することになるでしょう。

しかし、限界があります。

最初は食事量をコントロールできていたとしても、人間は物を食べないと生きていけないのです。身体が本能的に食べることを欲するのです。

この状態にまでなると、頭の中は食べ物のことでいっぱいになります。

脳は特に栄養価の高い物を食べるように訴えかけてきます。しかしそれは今まで懸命に我慢していたもの。

ジャンクフード、菓子パン、チョコレート、クッキー、ケーキ、アイス、ドーナッツ…

それでも最初はこういったものを食べないように我慢します。

考えないように努めます。

しかし、それも限界です。

人の頭は、「考えないようにしよう」とするものに限って、考えてしまう性質があるのです。

※試しに「ミドリ色のネズミのことだけは絶対に考えないでください」。
…どうでしょう?今までの人生で一度もミドリ色のネズミなんて想像したことがなかった人も、「考えないで」と言われた瞬間、考えてしまったのではないですか?

こうやって、「食べ物のことしか考えられなくなる」というトリガーが引かれることになるのです。

2つ目のトリガーは、「自分の気持ちがわからなくなる」です。

ダイエットの目的の1つは、痩せて他人から評価してもらうことでした。
「自分がどう思うか」ではなく、「他人がどう思うか」が自尊心に強く影響しているのです。心の矢印の方向が外向きなのです。

他人の評価とは、実にくせ者です。とっても不安定だからです。
今日「かわいいね」と言ってくれた人が、明日も「かわいいね」と言ってくれる保証はどこにもありません(誰でも気分にムラがあるものです)。
ひどい時には「痩せ過ぎじゃない?顔色悪いよ?」と急に否定的なことを言われることだってあり得ます。

しかし、本人は過去に痩せて「かわいい」と言われた成功体験があるし、誰か一人に「痩せ過ぎ」と言われても、他の「かわいい」と言ってくれる人さえいれば、「もっともっと」と痩せることを目指すのです。
このようにして、常に他人という曖昧で不安定な評価に翻弄されることで、本来は最も大切な「自分の気持ち」に心の矢印を向ける余裕がなくなってしまうのです。

自分が本当にしたいことや願望が見えづらく、それらを表現することができなくなってしまいます。

摂食障害を持つ方々に対する支援者として著名なJanet Treasure達はこのように言っています。少し長いですが、そのまま引用します。

感情をごまかしたり、感情を回避することは、そのこと自体が感情の大切さを失わせることになるため、有害に作用する。このようなことは、摂食障害の患者が自分自身の情動知能を発達させて、それに対して自信を持つことを阻害することになる。

このように、「自分の気持ちがわからなくなる」という2つ目のトリガーが引かれると、自分の人生を歩めなくなるので、自尊心はますます低下していくことになるのです。

この2つのトリガーが引かれきってしまった状態が摂食障害であると考えるとわかりやすいでしょう。

1つ目の「食べ物のことしか考えられなくなる」が強く引かれるとむちゃ食いが生じ、過食症に、
2つ目の「自分の気持ちがわからなくなる」が強く引かれ、痩せることしか考えられなくなると、拒食症に、

という感じでしょうか。

もちろん、この2つのトリガーは強くなったり弱くなったりします。このことが、拒食症から過食症になったり、逆に過食症から拒食症になったりする理由です。

摂食障害の根本的治療

以上、2つのトリガーが引かれた要因は「自尊心の低さ」にありました。
ですから、摂食障害の根本的治療を行うには、自尊心を高めるアプローチが必要です。

このアプローチには、「重要な他者」の協力が不可欠です。
「重要な他者」とは、摂食障害を抱える人にとって、心理的な影響力の強い人です。家族や恋人、親友等が多くの場合該当します。

なぜこういった人たちの協力が必要かと言うと、その人が重要な存在であればあるほど、「どう評価されるのか」が気になるものだからです。

この部分、一応念のために注意して欲しいことがありますので、補足いたします。

「母親の育て方は、摂食障害の原因ではない」と先述しました。このことに間違いはありません。
しかし、「原因ではない」ということは、「母親とのコミュニケーションが、摂食障害には全く影響しない」ということを意味しません。

なぜなら、母親も「重要な他者」であることが多いからです。

例えば、母親から「あなたは太っていて可愛くない」と言われたからといって、すぐさまそれが原因で摂食障害になるわけではありませんが、その前後のやり取りによって自尊心の傷つきに繋がることは容易に想像ができます。

「育て方が原因である」ということと、「コミュニケーションが影響している」ということは、同じようでまったく異なりますので、注意してくださいね。

摂食障害の克服には、「重要な他者」と少しずつ「数字」や「外見」以外の側面で、真剣にコミュニケーションを取り合い、自分の本当にしたいこと、願望をぶつけていくことが重要となります。
したいことや願望を相手に伝えても、それでもなお、「あなたはあなたのままでいい」と受け容れてもらえる経験を積んでいくのです。

もちろん、始めはうまく自分の気持ちが見えてこないかもしれません。

それでも大丈夫です。

少しずつ、「本当は自分はどんなことを思っているのか?」「何を大切にして生きていきたいのか?」を考えていけば良いのです。

時には専門家の力を借りてもいいでしょう。

あなたは今まで1人で頑張ってきたはずです。摂食障害を治す時くらい、1人で頑張らないで。

一緒に治していきましょう。

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

自尊心が低くなると、人は「数字」や「外見」によってそれを補おうとしがちです。

具体的な手段としてダイエットが選ばれることが多いのですが、それが行き過ぎた結果となり、「食べ物のことしか考えられなくなる」(第一のトリガー)、「自分の気持ちがわからなくなる」(第二のトリガー)傾向が強くなりすぎると、病気にまでなってしまいます。それが摂食障害という病いです。

摂食障害になると、トリガーを引き続ける状態となりますので、ますます自尊心が低下していきます。

摂食障害になるもともとの根幹は自尊心の低さです。ですから、根本的な治療には自尊心を回復するためのアプローチが不可欠です。

そのためには、「重要な他者」の協力が必要です。専門家の力を借りることも1つの選択肢になります。

まとめ

参考文献
  • ・Costin,Carolyn.(1997). Your Dieting Daughter: Is She Dying For Attention? New York: Brunner/Mazel.
  • ・Janet Treasure,Ulrike Schmidt,&Pam Macdonald(2010). The Clinician’s Guide to Collaborative Caring in Eating Disorders :The New Maudsley Method:Routledge.(ジャネット・トレジャー, ウルリケ・シュミット, パム・マクドナルド (著), 中里 道子, 友竹 正人 (翻訳)(2014).モーズレイ摂食障害支援マニュアル)p219
  • ・Keel,Pamela K.(2006)Eating disorders.New York:Chelsea House Publishers.
  • ・水島広子(2007)拒食症・過食症を対人関係療法で治す 紀伊国屋書店
  • ・水島広子(2015)摂食障害の不安に向き合う:対人関係療法によるアプローチ  創元こころ文庫
  • ・Smink FRE, et al. (2012)Curr Psychiatry Rep 14: 406-414.

この記事を書いたライター

小野寺リヒト

臨床心理士・公認心理師

プロフィールをご覧いただき、ありがとうございます。小野寺リヒトと申します。現在はメンタルクリニックでカウンセラーをしています。うつや不安と言った症状はもちろん、将来のことや対人関係の悩みなど、お気軽にご相談くださいね。

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